牛肉の味を求めてなどという事を本当に突き詰めて考えたことはないが、自分なりに、これは良さそうだと思うことは積極的に行ってきたし、これからも多分そうであると思う。
昔は気に入れば、産地を特定して農家と契約までして一頭買いもした。
10年位は休まずに買ったが、特にこだわりがあったわけでもない。
美味しい、ということが大切であったし、むしろ他の産地の牛肉はあまり知らなかったというのが本当である。
牛肉の味を求めて全国を行脚する余裕もなければ、牛肉の世界というものは自分はシロウトであるに等しい。
シロウトであるが故に、例えて言うならば水の深さが分からずに、自分で水に浸かり、一歩ずつ足元を探りながら前へ進むような心持ちだ。
進めば良いが、流されて後ろへ戻ることだってある。頼りないのである。
口に入れるものは食べてみないとわからない。
しかし、そうこうするうちに、日本を代表するブランド牛なども取り扱うようになった。
お金を払って会員にまでなり、ああ、俺もこういういい肉が手に入るようになったと有頂天になったこともある。
ただこれもしかし、経験する内に肉質や味などはむしろ、焼肉というスタイルで考えてみれば、値段も用途も了見違いであるような気がした。
すき焼きやステーキではなく、あくまでも焼肉というスタイルが大切だ。
しかし美味しい肉は召し上がって頂きたい。
この辺のせめぎ合いが時に僕を苦しめる。
実に厄介である。
牛肉の味を求めてなどと考えればいつもこの辺で立往生してしまうのだ。
於 本店厨房