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「走るな、あるけ」
去年の暮れからどうも目が見づらくなって包丁の切先が見えない。
ボンヤリしてハッキリしないから、今年の正月になっていよいよ調子が悪いので病院に行くと、すぐ入院、と云うことで少し慌てたが、
まぁこれも仕方ない、働き過ぎのバチが当たって、もうここらへんで少し休んでみようと思い、10日程入院した。
店にはまだつたない感じの若い人達がいるだけで、これは万が一お客さんにも迷惑があるといけないから、
家内には、「店は2〜3日休んでいいよ」と云いました。
しかし、どうも彼等が云うには
「きっとやりとげますから、どうか安心して入院して下さい」と後に引かないので、
少し不安もあったけれど、そういう彼等の目は真剣だったし、
「それならじゃぁやってごらん」と云って、僕はさっさと入院した訳です。
それから春が過ぎてしばらく通院をしながら、厨房にはほとんど入らず、
店のそうじをしたり、トイレそうじから雑役や、お客さんにビールを注いだり、
要望があればタバコなども買いにいって、できることは何でもしたが、
厨房は若い彼等に任せて、時折要所だけを云って、あとは好きなようにしてもらった。
そうこうする内に、日を追うごとに彼等の腕前は上がり、これは目を見張ることがあって、
大したものだと感ずるようになった訳です。
以前のようなものおじもなく、堂々としている。
彼等の手の先から伝わるスピリットのようなものが感じられる。
僕が抜けた間のほんの10日位の間に彼等は1枚も2枚も皮がむけて、 成長を見たと思いました。
”今時の若いもんは”なんて云うとバチが当たります。
僕よりも芯が強く、僕よりもスマートで、そして、アッケラカーンとして、そういう彼等は僕の若い頃に比べて成熟感のあるように見える。
この度の入院は彼等にとっても僕にとってもいいチャンスだったし、この頃は、以前ほど僕もバリバリ仕事はやりません。
なにからなにまで全部目を通し、全部決めて、全部ひとりで走っていたので、
これは続かないので、今の僕はチームのひとりで、彼等と一緒になってゆっくりと歩を進めている。
この間病院に行ったら、先生は「もう少しゆっくりとすればどう?」とおっしゃるので、
ハイと返事だけしまして、いや心中は ”僕はまだまだ大丈夫、それよりも先生。焼肉を食べにおいで下さい”と云って帰りました。
もうすっかり良くなって、包丁の切先も、彼等の仕事ぶりもハッキリと見えるようになって、
本当に、どうもありがとうございます。
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