「ポーン」
仕事が重なってくると段々と疲れてはくるけれども、もともとタフにできているから平気なのだが、心が少しトゲトゲしてくる時は良くないと思うから、
そういう時は皆にひとこと云ってポーンと外へ飛び出して、30分でも1時間でもサボル。
そうすると、これが効いてまた店に戻って仕事を続ける、というのがここ何年間の日課になっている。
これをやらないと気持ちがなぜか義務感のかたまりのようになってしまうのではないかと思って、
ただズルズルと仕事をこなすというのが苦手なので、気分転換は大切なのだと思う。
お客様相手の商売であるからなるべく機嫌良く振る舞うことは当然であるが、しかし年中仏様のような顔はできない。
時には自分をだましてでも機嫌良くすることもある。が、どうしてもできない時は弱音をはきたくなることもある。
僕の母や家内は料理上手だが、しかしこれがにわかに一転して、ごきげんが大いにななめの時などはその仕上がりに出る。
塩辛いか全く味がないかということになって、これはやはり人間が造るからこのようになるのであって、ロボットでもないから造り手の感情というものがもろに結果に出てしまう。
この感情というやっかいなものは時として義務感にもなれば、満面の笑みを以て表れる愛ということにもなろう。
料理は愛情と云うが、この愛は辛くて塩っぱいものにもなるが、造り手としてこの義務と愛の比率は考えてみる必要がある。
であるから、僕は今年も「ポーン」をやるのです。
|
|