・厨房思案 第97話
・厨房思案 第96話
・厨房思案 第95話
・厨房思案 第94話
・厨房思案 第93話
・厨房思案 第92話
・厨房思案 第91話
・厨房思案 第90話
・厨房思案 第89話
・厨房思案 第88話
・厨房思案 第87話
・厨房思案 第86話
・厨房思案 第85話
・厨房思案 第84話
・厨房思案 第83話
・厨房思案 第82話
・厨房思案 第81話
・厨房思案 第80話
・厨房思案 第79話
・厨房思案 第78話
・厨房思案 第77話
・厨房思案 第76話
・厨房思案 第75話
・厨房思案 第74話
・厨房思案 第73話
・厨房思案 第72話
・厨房思案 第71話
・厨房思案 第70話
・厨房思案 第69話
・厨房思案 第68話
・厨房思案 第67話
・厨房思案 第66話
・厨房思案 第65話
・厨房思案 第64話
・厨房思案 第63話
・厨房思案 第62話
・厨房思案 第61話
・厨房思案 第60話
・厨房思案 第59話
・厨房思案 第58話
・厨房思案 第57話
・厨房思案 第56話
・厨房思案 第55話
・厨房思案 第54話
・厨房思案 第53話
・厨房思案 第52話
・厨房思案 第51話
・厨房思案 第50話
・厨房思案 第49話
・厨房思案 第48話
・厨房思案 第47話
・厨房思案 第46話
・厨房思案 第45話
・厨房思案 第44話
・厨房思案 第43話
・厨房思案 第42話
・厨房思案 第41話
・厨房思案 第40話
・厨房思案 第39話
・厨房思案 第38話
・厨房思案 第37話
・厨房思案 第36話
・厨房思案 第35話
・厨房思案 第34話
・厨房思案 第33話
・厨房思案 第32話
・厨房思案 第31話
・厨房思案 第30話
・厨房思案 第29話
・厨房思案 第28話
・厨房思案 第27話
・厨房思案 第26話
・厨房思案 第25話
・厨房思案 第24話
・厨房思案 第23話
・厨房思案 第22話
・厨房思案 第21話
・厨房思案 第20話
・厨房思案 第19話
・厨房思案 第18話
・厨房思案 第17話
・厨房思案 第16話
・厨房思案 第15話
・厨房思案 第14話
・厨房思案 第13話
・厨房思案 第12話
・厨房思案 第11話
・厨房思案 第10話
・厨房思案 第9話
・厨房思案 第8話
・厨房思案 第7話
・厨房思案 第6話
・厨房思案 第5話
・厨房思案 第4話
・厨房思案 第3話
・厨房思案 第2話
・厨房思案 第1話
厨房思案 第十四話


「Nothing but the 牛肉」

先日、当店と契約している淡路島の牧場主から東京に行くと電話があり、
飛行機の便名と到着時刻を聞いて、うーん、弱った。

滞在時間が短い!
徳島発9:30AM、羽田着10:30AM、帰りが羽田発16:45PM。
東京到着後、途中寄る所があって、それから一緒にお食事でもしながらお話でも、
という段取りで、日帰りなのである。

牧場主は奥様と、忙しい時間を工面して僕に会いに時折このように過密スケジュールの中を来てくださるのであります。

牧場主の彼とは、単なる商売上のパートナーから始まり、
段々と少しづつ近寄りあい、また理解し合ながら今年に至って、
9年の歳月を経て、ようやく彼も僕も厚い信頼と友情を絆に、今では男同士の付き合いで、
家内と奥様と家族ぐるみのお付き合いをしているわけである。
そんな中でわざわざ東京においでになるわけであるからして、
僕もできるだけのことはして差し上げようと、束の間の「東京」をご案内したことがある。
前回は日本橋、浅草、芝増上寺、東京タワーなどど、過密スケジュールでまわったのである。

しかし、今回はもっと短い。 さて、当日は日曜日。ウチの店は定休日。

オーナー夫妻、僕と家内、車を走らせて残り3時間。うーん……、
「銀座へ行きましょう!」と思わずひらめいた案を口にしてしまった。
しかし、まてよ……、と内心困ってしまったのである。

銀座。
僕は銀座へはよく行くが、メシは食ったことないのですよ、銀座では。
(ひいきにしている店は山ほどあるのに……)
しかし!そんなこと云ってるヒマはないのである。

兎に角、銀座に着いて奥様の為にヴィトンへ行き、
ご主人の好きな日本酒を松屋の地下で買い求め、
さて昼時も相当過ぎて、その困ったメシをどうするか?

ウロウロする訳にはいきません。
とりあえず入りました。天ぷら。目の前にあったのである。
四人で入ると相当混んでおり、まぁなんとか座って定食のセットを注文して、
足りないと困るのでお刺身も追加した。

これが良くなかった。
鮮度というよりも、天ぷら屋さんのお刺身はやはり注文するべきではなかったなと、後で反省したのである。
(お刺身に)手をおつけにならない。
オーナーご夫妻、淡路島生粋なのであります。
クロダイ、舌ビラメ、海老、タコ、ないものはない位魚の宝庫なのです、淡路島は。
コリコリのシャキシャキのグレーテストな本場の国からおいでの人達に、
僕は、”何を考えているのかね?君は!”などと、自分を責めたのである。
弁解するわけではないが、このところ残業続きで、昨夜は仕込みでほとんど眠らず。

しかしながら、オーナー夫妻はざっくばらんに、ニコニコしながら
「銀座のヒラメもええもんやないですか」と云ってきれいに全部召し上がっていただいたのである。

食後、僕とオーナー、奥様と家内四人で銀ブラを楽しみ、三越の脇で写真を撮り、
松阪屋の前でしばし束の間の東京を眺めていた。
その時、オーナーは僕にコッソリと耳打ちしたのです。
「くにもとはん、こんなようけ気ぃ使わんでも、くにもとはんのお店でゆっくりと肉でも食べましょ、次回は。」

羽田でオーナー夫妻を見送った後の車中、
お土産に頂いた淡路産の「のり」。これ、どうしても食べたい、今すぐ!
我慢できずに包みを破って食べたら「本物」の味が頭をガツーンと殴ったのですよ。
”のり一筋”の本物の味がね。

「いけねぇ、やっぱりオーナーの云う通り、ウチの二階でやればよかったな」。
彼等の為に店を開け、炭をおこし、肉を切り、
まず手始めにウデの刺身に、いちぼのタタキ酢醤油ときて、
とも三角の脂の乗ったやつは塩にして、
淡路の特選わかめを程よくもどし細かく切って、らんいちロースの柔らかい所を薄切りにして、
特製のタレでもみ合わせてユッケにする。
メインは松阪のヒレを塩、淡路のヒレをタレにして両方の食べ比べも悪くねぇ。
締めくくりに、6時間煮込んでおいたトロトロにしたネックをクッパに入れて、
別腹の冷麺でお開き。

「オマエはなぜこういう接待をしなかった!?」
と自分を責めたのである。
そのお土産にいただいた「のり」を何枚も何枚も口にいれて……。

がしかし、
この一件で僕はひとつ確信が持てたのですよ。
あの「のり」を食べてね。

それは、僕が牛肉一筋であるということ。
海老もカニもヒラメもマグロもどこぞの誰かさんにお任せして、後にも先にも僕は牛肉しかやらないと。
於、羽田空港パーキング。(自分の車がみつからない!)

トップ   店舗案内   ご予約とメニュー   厨房思案 (Blog)