「店と共に半世紀」
このあいだ知り合いの通夜があって浅草まで行ってきた。
普段からお世話になっていたので何かお手伝いでもと思い、申し出て、弔問客の下足番をした。
浅草で50年以上飲食店をおやりになって、 80歳を越えてなお現場に出て元気にしておられたのは、つい最近までだったと覚えている。
いつもお店の白衣を着て、常連のお客様の相手をして、いいおやじさんだった。
いつだったか、僕の為に寄せ鍋を造ってくれて一緒に食べたこともある。
お亡くなりになった夜、連絡があって病院に行くと、おやじさんは小さくなって横たわっていた。
とにかく仏様を店に連れていくと友人が云うので、僕も一緒に行くと、店にはまだお客さん方が残っていて、遺体は店の奥のお座敷へ安置された。
皆、立ち上がっておやじさんの方へ向く。
ほろ酔い気分の人から目を真っ赤にした人、おしゃべりをしていた人もおやじさんの遺体にお線香をたむけ、手を合わせた。
ひとくちに店を50年以上も続けるということは並大抵の事ではない。
人生のほとんどを店と共に過ごし、店と共に生きたこのおやじさんを見て、できれば僕もこのように生きたいと思ったのである。
お客さん方は皆おやじさんが好きだったし、息子さんもお客さん方に人気があるので、この先はぜひ息子さんに頑張って頂いて、おやじさんの築いたこの店を継続して、いい店に育てて頂きたいと願っている。
人間は皆、おそかれはやかれ死ぬが、
生きている間に残した分身のようなものは、よければ絶やさず残してもらいたい。
49日の夜に「おやじさんを偲ぶ会」に呼ばれたが、フッと肩に温もりがあったのは、多分、気のせいじゃない。
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