本店の改装を終えてようやく現場に戻れてうれしい。
長いあいだ設備も不十分な店で夏は暑く、冬は寒い。
煙はモクモクと店内にたちこめて、それこそ情緒感があるとひいき目に見てとれないこともないが、口で云うほど楽じゃなかった。
いつかはちゃんと改装をしようと考えていたものの、そこは物事には時期と順序というものがある。
先立つものの工面もつかなかったし、不便な所には目をつぶってがまんをすれば、そのうち忙しさにかまけて忘れてしまう。
だけれどもまた不便さが嫌になって、なんとかしなきゃなぁなどと思案に暮れる。
この繰り返しをしていたように思う。
しかし、これはこれで自然だったかな。
むしろ順序が良かった。今考えれば。
お金もそうであるけれど、ただ情熱があるのみで足りないものを数えるヒマなどなく、不便さから逆に多くの知恵を生み、
創造力をかきたて、あれこれなくても“なんだできるじゃないか”などと云うことがずいぶんあったように思う。
こうして新しくなった本店はそういう不便さをずいぶん経験して、文字通り順序をふんで改装を達成できたのはうれしい。
不便さで思い出すが、昔の人は食べ物を粗末にしないが、
私の母なども食べるものに不自由な経験があったので、なんとかやりくりして不自由ながらも造る。
この歳になってなんか、少し分かったような気がするな。
於、本店厨房