厨房思案 第98話 「脂は良質であること」
年が明けて正月も終わり、またいつもの日常に戻っている。
正月休みのおかげで、疲れが抜けて調子も悪くない。若い頃のように敏捷な動きはないが、まだまだ大丈夫だ。
去年の暮れに優秀賞の肉を買ってみた。いい値段だったからほんの少し買った。 いい肉だったな。 世の中にはどのようなものにもピンからキリというのが必ずあるが、 そもそもピンを知らずして、何かものがわかったような気になるのは、真に不遜というものだ。
優秀賞は一年に一度東京で行われる全国共励会の優秀賞なのだから、まあ、いわゆる スポーツの世界で言えば、全日本選手権のチャンピオンということになる。
普段から仕入れているグレードは、実力は充分にあるがそれほど知名度がないとか、かつて、選手権の上位を経験したクラスの肉を選んでいる。 この層は意外に厚くチャンピオンほどのグレードではないものの、価格も落ち着いている。 だからこれで充分だが、優秀賞の肉は、伊達や酔狂ではない。別の肉だったな。脂を楽しむと言ったらいいだろうか。
一般的に赤身の肉が好まれている昨今、今回のような良質の脂なくして美味い赤身などというものがあるとは思えない。
しかし、そうは言っても年中これを買う訳にはいかんよ。
食べものの価格は、天井がある。
今年の初セリのマグロのように三億円も出して買うなんて男の意地の張り合いだな。
年頭から思案の種は尽きないね。
於 本店厨房