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厨房思案 第四話

「フード ハズ ノー フェイス(Food has no face)」

僕が子供の頃(昭和30年〜40年代)はどこに行っても「店の主」がいた。
コンビニやファミレスなどはもちろんなく、一軒一軒「○○屋」さんと分かれていて、必ずそこに「ご主人」や「おかみさん」「二代目」などのお店の「顔」がいた。うなぎ、天ぷら、おそば、お鮨、豆腐屋、佃煮屋、かまぼこ、牛乳屋、足袋、駄菓子、洋服、自転車などなど、各々おのおのが独立したお店として成り立っていた。

最近では生活に欠かせない物や家電などは大手のスーパーや量販店で取り扱うようになって値段もサービスも便利このうえないと感じるが、僕にとって「口に入るもの」はずいぶんと不便になってしまったなぁと時々思うことがある。

豆腐屋のご主人が、自転車に乗って小さいラッパを吹きながら、自分で造った豆腐をコツコツと売り歩く姿はもう最近では見かけなくなった。母と一緒につてゆき、ショーケース越しに牛肉をながめ、「スキヤキかい?」なんてひやかしてくれる店のご主人。、家の近くにあった手造りの「かまぼこ屋」さんなどは紙にくるんで「僕、ひとつおあがり」とアツアツのやつをくれたりした。
ご主人やおかみさんが段々年を重ねて、体も不自由になり、自分で思うように造れなくなったら二代目に譲ればいいが、「あと」がいなければ廃業するしかない。もうこの味は二度と口に入らない。夢まぼろしの如くなり、という訳だ。

24時間、いつでもどこでも腹がへったらなんでも口に入るこのご時世に、「主(あるじ)不在の顔のない食いモノ」に腹を満たす自分がいる。そんな自分をなかなか癒せない。

ところで、「僕が死んだら店は息子がやるのだろうか……?」なんてことをフッと考えていたら、

……お客さんが入ってきたので、この辺で忘れてしまった。。

                                      …… つづく ……
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